なぜ今、AI時代にCLIツールを作ったのか - Qx開発の舞台裏
OpenAI APIと対話するCLIツール『Qx』の開発背景。o3-search-mcpと同じ課題意識から生まれた別アプローチ、そしてWeb検索機能とモデルサイズの意外な関係性について。
きっかけは一つのフラストレーション
皆さんは、ターミナルで作業中にこんな経験はありませんか?
「このエラーメッセージ、どう解決すればいいんだろう…」
ブラウザを開いて、エラーメッセージをコピペして、Stack Overflowを開いて、GitHub Issuesを確認して、公式ドキュメントを読んで…気づけば30分経っていた。 しかも、結局解決策が見つからない。
そんな日常的なフラストレーションから、Qxは生まれました。
既存ツールの課題:なぜ新しいCLIが必要だったのか
ChatGPTやClaudeのWebUIの限界
確かに、ChatGPTやClaudeのWebインターフェースは素晴らしいです。 でも、開発者として日々ターミナルで作業していると、いくつかの課題が見えてきます。
- コンテキストスイッチのコスト - ターミナル → ブラウザ → ターミナルの往復は意外と疲れる
- コピペ地獄 - エラーメッセージやコードを何度もコピペするのは非効率
- 最新情報へのアクセス - LLMの知識カットオフ以降の情報は手動で補足する必要がある
- 自動化の難しさ - WebUIはスクリプトやパイプラインに組み込めない
既存のCLIツールたちの物足りなさ
「でも、既にCLIツールはあるじゃないか」と思われるかもしれません。 確かに、GitHub Copilot CLIやsgpt、aicommitsなど、優れたツールは存在します。
しかし、これらのツールにも限界がありました。
- Web検索機能の欠如 - 最新の技術情報やライブラリのアップデートを反映できない
- 単機能特化 - コミットメッセージ生成やコード補完など、特定の用途に限定される
- 推論能力の制限 - 複雑な技術的問題に対する深い分析が難しい
- 情報源の統合不足 - 複数のソースからの情報を統合的に扱えない
同じ課題、異なるアプローチ:o3-search-mcpとQx
Claude Codeの検索能力問題
最近、Claude.aiがMCP(Model Context Protocol)サーバーのサポートを発表しました。 これを受けて、興味深いツールが登場しています。
o3-search-mcpは、Claude Codeの検索能力の弱さを補完するために開発されたMCPツールです。 Zennの記事でも紹介されているように、開発者は「Claude Codeの検索があまり強くない」という課題に直面していました。 複雑なエラーや込み入った問題は、別途ChatGPTアプリでo3に聞いて、その回答をClaude Codeにコピペする。 そんな「情報運び屋」的な作業が日常になっていたのです。
o3-search-mcpは、この非効率な手動作業を解決するため、MCPを使ってClaude Codeから直接o3に質問できる仕組みを実現しました。
人間のためのインターフェースという別解
一方、Qxは同じ「AI時代の検索問題」に対して、異なるアプローチを取りました。
o3-search-mcpがClaude CodeとOpenAIのo3を繋ぐ「橋」だとすれば、Qxは「人間が直接OpenAI APIと対話するツール」です。
両者に共通する機能は以下の通りです。
- LLMが自律的にWeb検索を実行
- 検索コンテキストサイズの調整
- 推論努力レベルの設定
しかし、決定的な違いがあります。 o3-search-mcpはAIエージェント(Claude Code)のための拡張機能。 Qxは人間が直接操作するCLIツール。
この違いは重要です。 なぜなら、開発者は常にAIエージェント経由で作業するわけではないからです。 ターミナルから直接、素早く情報を得たい場面も多々あります。
そこで生まれたのが、Qxです。 o3-search-mcpと同じ問題意識を共有しながら、人間が使いやすいCLIツールとして設計しました。
人間中心設計の重要性
AIツールが増える中で、忘れてはいけないのは「人間が使いやすいこと」です。
Qxの設計では、以下を重視しました。
- シンプルなコマンド体系 -
qx "質問"
だけで使える - 賢いデフォルト設定 - ほとんどの場合、オプション指定は不要
- 直感的なフィードバック - 何が起きているか分かりやすく表示
- エラー時の親切な対応 - 問題が起きても次のアクションが分かる
Qxの使い方:パイプの魔法
必要なもの
Qxを使うには、OpenAI APIキーが必要です。 環境変数として設定するだけで、すぐに使い始められます。
export OPENAI_API_KEY="your-api-key-here"
基本的な使い方
# シンプルな質問
qx "今日の天気は?"
# 技術的な質問
qx "ReactとVueの違いを簡潔に説明して"
# コードの生成
qx "Pythonでフィボナッチ数列を計算する関数を書いて"
Web検索機能で最新情報を取得
Qxの強力な機能の一つがWeb検索です。 デフォルトで有効になっており、最新の情報を取得できます。
# 最新の技術トレンド
qx "2025年の最新のJavaScriptフレームワークのトレンドは?"
# 現在のニュース
qx "今日の技術系の重要なニュースを教えて"
# 特定のライブラリの最新バージョン
qx "Next.jsの最新バージョンと新機能は?"
# Web検索を無効にしたい場合
qx "TypeScriptの基本的な型を説明して" --no-web-search
パイプとの組み合わせ
Qxの真価は、Unixパイプと組み合わせたときに発揮されます。 他のコマンドの出力を即座にAIで分析できます。
システム情報の解説
# ディスク使用状況を分かりやすく説明
df -h | qx "このディスク使用状況を説明して"
# プロセス状況を分析
ps aux | qx "メモリを最も使用しているプロセスは?"
# ログファイルのエラー分析
tail -n 100 error.log | qx "エラーの原因を特定して"
Web情報の要約
# APIレスポンスの解析
curl -s https://api.github.com/repos/openai/openai-node | qx "このリポジトリの概要を3行で"
# HTMLページの要約
curl -s https://example.com | qx "このページの主要な内容をまとめて"
# RSS フィードの分析
curl -s https://news.ycombinator.com/rss | qx "最も注目すべきニュースは?"
開発作業の効率化
# git の差分を説明
git diff | qx "この変更の影響を説明して"
# テスト結果の分析
npm test 2>&1 | qx "失敗したテストの原因は?"
# ビルドエラーの解決策
make 2>&1 | qx "このビルドエラーを解決する方法"
データ処理
# JSONデータの分析
cat data.json | qx "このデータの統計を出して"
# CSVの要約
head -100 sales.csv | qx "売上のトレンドを分析"
# 設定ファイルの検証
cat nginx.conf | qx "この設定の問題点を指摘して"
これらの例が示すように、Qxは既存のコマンドラインツールと完璧に統合されます。 AIの力を、従来のUnixワークフローにシームレスに組み込めるのです。
まとめ:開発者の日常を変える小さな革命
Qxは、大げさな革命を起こそうとしているわけではありません。
ただ、開発者が日々感じる小さなストレスを、一つずつ解消したいと思っています。
- エラーメッセージに遭遇したとき
- 新しいライブラリの使い方を調べるとき
- ニッチな技術課題に直面したとき
そんなときに、ターミナルから離れることなく、素早く答えを得られる。 それがQxの目指す世界です。
「LLMの自律的な検索」というアイデアを、人間が日常的に使えるツールとして実現しました。
AIエージェント時代だからこそ、人間とAIが同じツールを共有し、協働できる環境が重要になります。 CLIツールは、その架け橋となる存在です。
開発の現場で、Qxが皆さんの良きパートナーとなることを願っています。