動的システムか静的システムか - 技術ブログの構築方法を選ぶ
企業技術ブログを自作することに決めた後、動的システム(WordPress)と静的システム(SSG)を比較検討し、最終的に静的システムを選択した理由を詳しく解説します。
はじめに
前回の記事では、企業技術ブログを始めるにあたって、外部サービスではなく自作を選んだ理由について解説しました。
今回は、自作する場合の重要な選択である「動的システムか静的システムか」という分岐点について詳しくお話しします。 この選択は、その後の開発・運用に大きく影響する重要な決定です。
動的システムか静的システムか
ブログを自作する場合、まず動的システムか静的システムかを選ぶ必要があります。 この選択は、その後の開発・運用に大きく影響します。
動的システムとは
動的システムの代表例はWordPressです。 仕組みを理解するために、リクエストの流れを見てみましょう。
ユーザーアクセス → Webサーバー → PHP実行 → データベース問い合わせ → HTML生成 → レスポンス
特徴: ブログ記事をデータベース(MySQL等)に保存し、ユーザーのアクセスごとにサーバーサイドでHTMLを動的生成します。 管理画面で記事の投稿・編集が可能で、プラグインで機能拡張が容易です。
メリット: リアルタイムな更新が可能で、コメント機能などの双方向性を実現しやすくなっています。 非エンジニアでも記事投稿が簡単なのも大きな利点です。
デメリット: サーバーのCPUリソースを多く消費し、データベースの管理が必要です。 セキュリティ対策も複雑になります。
静的システムとは
静的システムは、事前にHTMLファイルを生成しておく方式です。
ビルド時:Markdown → HTML生成 → 静的ファイルとして保存
アクセス時:ユーザーアクセス → Webサーバー → 静的HTMLを返す
代表的な静的サイトジェネレーター: Astro(最新のWeb標準に準拠、パーシャルハイドレーション対応)、Hugo(Go言語製で超高速ビルド)、Next.js SSG(Reactベース、動的機能との併用も可能)、Gatsby(Reactベース、プラグインエコシステムが充実)などがあります。
メリット: 配信が高速(事前生成されたHTMLを返すだけ)で、セキュリティリスクが低く、ホスティングコストが安い(または無料)です。 バージョン管理もしやすく、Gitで管理可能です。
デメリット: リアルタイム更新には向かず、ビルドプロセスが必要です。 動的な機能の実装も複雑になります。
パフォーマンスとコストの比較
実際の数値で比較してみましょう。
レスポンスタイム: 動的システム(WordPress)は平均200-500msですが、静的システム(CDN配信)は平均10-50msです。
月額コスト(想定): 動的システムはVPS/クラウドサーバー(3,000円〜)、データベース(1,000円〜)、バックアップ(500円〜)が必要です。 一方、静的システムはGitHub Pages(無料)、Netlify/Vercel(無料プラン有り)、AWS S3 + CloudFront(数百円〜)で運用できます。
同時アクセス耐性: 動的システムはサーバースペックに依存しますが、静的システムはCDN利用でほぼ無制限です。
この比較を見れば、静的システムの優位性は明らかです。
Cloudflareで更なる高速化を実現
私たちは静的システムにCloudflareのCDNを組み合わせることで、さらなるパフォーマンス向上を実現しました。
グローバルなエッジネットワーク: 世界中に配置されたサーバーから最も近い場所から配信され、日本国内だけでなく、海外からのアクセスも高速です。
無料プランでも十分な機能: 基本的なCDN機能、SSL証明書の自動発行、DDoS対策が含まれています。
Cloudflare Pagesとの連携: GitHubと連携して自動デプロイでき、プレビュー環境の自動生成も可能です。
私たちの場合、すでにCloudflare Workersの有料プランを利用していたため、追加コストなしで高性能なブログシステムを構築できました。
セキュリティ面での比較
動的システムのセキュリティリスク: 動的システムでは、SQLインジェクション(データベースへの不正なクエリ実行)、XSS(悪意のあるスクリプトの埋め込み)、プラグインの脆弱性、ブルートフォース攻撃(管理画面への不正ログイン試行)など、様々なセキュリティリスクに常に注意を払う必要があります。
静的システムのセキュリティ上の優位性: 静的システムは構造上、多くのセキュリティリスクを回避できます。 データベースが存在しないためSQLインジェクションは不可能で、サーバーサイド処理がないためXSSのリスクも極めて低くなります。 管理画面がないため不正ログインの心配もなく、読み取り専用の配信なのでファイル改ざんのリスクも低いです。
静的システムの正直なデメリット
一方で、静的システムにも課題があります。 正直にお伝えすると、以下のような点は考慮が必要です。
技術的なハードルの高さ: 動的システム(WordPress)なら、サーバーにインストールして管理画面から記事を投稿するだけです。 一方、静的システムでは開発環境のセットアップ、Markdownで記事を書く、Gitでコミット・プッシュ、ビルド・デプロイという手順が必要です。
機能実装の複雑さ: 動的システムでは標準で提供される記事の検索機能、カテゴリー・タグの管理、関連記事の表示、RSSフィードの生成、サイトマップの自動生成などを自前実装する必要があります。
非エンジニアには難しい: Markdownの記法やGitの操作など、エンジニア以外のメンバーが記事を投稿するハードルが高くなります。
それでも静的システムを選んだ理由
これらのデメリットを理解した上で、私たちは静的システムを選択しました。 理由は明確です。
個人開発者として慣れ親しんだツール: Gitは日常的に使用しており、Markdownも慣れ親しんだ形式です。 新しいツールを覚える必要がありません。
パフォーマンスの重要性: 技術ブログとして、高速な表示は必須です。 読者体験を最優先に考えました。
長期的な運用コスト: 初期構築は大変でも、運用は楽です。 サーバー費用も最小限で済みます。
まとめ
企業技術ブログを自作するにあたって、動的システムと静的システムを比較検討した結果、私は静的システムを選択しました。
静的システムを選んだ理由:
- 圧倒的なパフォーマンス(レスポンスタイム10-50ms)
- 低い運用コスト(無料〜数百円/月)
- 高いセキュリティ(攻撃対象となる動的な処理がない)
- Gitでのバージョン管理が容易
確かに、技術的なハードルは高く、機能の自前実装も必要です。 しかし、個人開発者として慣れ親しんだツール(Git、Markdown)を使えることと、長期的な運用コストを考えると、静的システムが最適な選択でした。
次回の記事では、静的サイトジェネレーターの中からどのツールを選んだのか、そしてCloudflareを使った配信の最適化について詳しく解説します。
皆さんの技術ブログ構築の参考になれば幸いです!